「票」って? ~漢字の意味と成り立ち~

2024年11月24日

 先日の衆議院選挙では、皆さんも投票に行ったのではないでしょうか。保護者の方と一緒に投票所に足を運んだ子どもたちも多かったことでしょう。最近では、投票所を訪れた子どもたちに、投票用紙に使われている「ユポ紙」の折り紙を配る自治体もあると聞きます。(こんな取り組み、私の幼少期にはありませんでした…少し羨ましく感じますね。)

 ところで、この「ユポ紙」ですが、実際には「紙」ではなく、紙のように見える樹脂製品なのだそうです!なぜ、わざわざこのような特殊な素材が投票用紙に選ばれているのでしょうか?実はその理由は、筆記適性の高さ、折り曲げても自然に開く特性、そして計数機との相性の良さにあるそうです。

出典:ユポコーポレーション公式HPより引用

https://service.yupo.com/release/column/Yupo-material-for-election-ballots/

  そんなに違うのかどうにも気になったもので、実際にユポ紙を購入してみました。実際触ってみるとなんと、ひっぱってもちぎれません。それにすごくスベスベしています。

 投票用紙のように折ってみます。開くでしょうか…

 凄い!何度折ってもこの形に開きます。これなら開票作業もしやすいですね。この特性が、投票用紙の役割を果たす上で重要な要素なのだと実感です。

 しかし、ここでふと気になったのが「票」という漢字についてです。「票」には「ものを書き込む薄い紙」という意味がありますが、実際の投票用紙をこうして見てみても、特別薄いわけではありません。

 「ものを書き込む薄い紙」…薄い紙…?普通の紙や厚い紙は指さないのでしょうか。

 このユポ紙も、(すごくスベスベしているのですが、)紙としての厚さは普通なように思えます。Google先生に聞いて世界の投票風景を見ても、紙の厚みには大きな差がないように思えます。いやいや、ユポ紙だとか、現代の投票用紙で疑問をもってもしかたありません。漢字は昔の中国で出来たわけですからね。しかし、古代中国の文化を調べても、薄い紙である必然性はよくわかりませんでした。

 実は、「票」という字はもともと投票や意見表明の道具を表すものではありませんでした。これは元々、火の粉が舞い上がる様子を象形化した字だったのです。形はこんな感じ。

出典:小篆(秦の始皇帝が定めた、当時の漢字の統一書体。)

 なので、「火の粉」のイメージから、元来「軽い」「揺れ動く」という意味を内包しています。このため、「票=意見表明の道具」で定着してからの現代でも、当時のイメージをそのままに「軽くて薄い紙片」を指すのですね。この具体例として、例えば「飄々」という言葉は、軽やかで自由な様子を表現しています。また、「漂流」や「漂う」といった言葉も、「軽く浮かぶ」イメージを含んでいます。これらは、「票」の「火の粉」からくる軽いイメージを受け継いだものです。

 このように、「票」は軽やかさ一時性を象徴する文字なのです。そのため、後に「投票」の概念が登場した際、軽く扱いやすい「薄い紙片」というイメージが結びつき、定着したと考えられます。

 漢字の成り立ち背景を知ると、日常的に使う言葉にも新たな発見があります。皆さんも、「おや?」と気になる漢字を見つけたら、その成り立ちを調べてみるのも面白いかもしれませんね。