「八」と「万」──古代日本の数の世界①
2025年2月2日
今回もコラムを読んでいただきありがとうございます。
私たちが普段何気なく使う数字には、それぞれの文化が持つ独特の意味が込められています。日本では「八」と「万」が特別な数とされ、古代から多くの場面で使われてきました。どちらも「すべて」「とても多い」「無限」といったイメージを持ち、日本人の数の感覚を形作ってきたのです。
「八」という数字の特別さ
まず、「八」は古くから「多い」「広がる」「神聖なもの」を象徴する数でした。より古いものを遡っていくと、日本最古の和歌とされる須佐之男命(スサノオノミコト)の歌にたどり着きます。
八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を
実際に最古の和歌…であるかはともかく、この歌では「八雲立つ」が訳さず意味を持たない枕詞ではなく実景として描かれているため、枕詞が形骸化する前の非常に古い歌であることがうかがえます。
この歌では、「八」が何度も繰り返されます。「八雲立つ(やくもたつ)」は、幾重にも雲が湧き上がる様子、「八重垣(やえがき)」は、妻を守るために幾重にも垣根を巡らせることを表しています。ここでは、「八」が単なる数字ではなく、「たくさん」「幾重にも」という意味で使われていますね。『古事記』や『日本書紀』では、このように「八」が「とても多いこと」を表す言葉として頻繁に登場します。
例えば、「八百万(やおよろず)の神々」という言葉が示すように、「八」は神々や森羅万象(しんらばんしょう)の数を表す際にも用いられました。これもまた、「八」が「数えきれないほど多いもの」を指すことの証です。同様に、日本の古称「おおやしま」も、「八つの島」(本州、四国、九州など)を指し、『古事記』に記された神話的な地名として知られています。このことからも、「八」が単なる数ではなく、「とても多い」ことを象徴する数字として使われてきたことが分かります。「八尋殿(やひろどの)」「八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)」「八咫烏(やたがらす)」など、神話や歴史の中でも「八」は特別な意味を持ち続けているのです。現代でも、「八百屋(やおや)」などの言葉で、数が多いことを示していますね。
なお、「八」は現代において「末広がり」として縁起の良い数字とされていますが、この考え方は比較的新しく、江戸時代以降に広まったものです。本来は、「八」が「多い」という意味を持っていたことのほうが重要でしょう。
以上、「八」についての歴史的な意味をお伝えいたしました。次のコラムは、「万」についての歴史的な意味を解説していきます。最後までお読みいただきありがとうございました。